若林 裕助教授らの研究成果が東北大学からプレスリリースされました。
:2025.10.08
水の電気分解に使われる酸化物電極触媒表面の自発的な構造変化を放射光で観察
発表のポイント
- 水の電気分解において、電極触媒表面でどのようなプロセスで化学反応が進行するかを知るために必要な表面の原子配置を、放射光を利用して観察しました。
- 今回研究したコバルト酸化物では、高機能触媒と類似の構造が電気化学環境下で自発的に形成され、それに伴い触媒活性も変化することを発見しました。
- 再生可能エネルギーの貯蔵を無駄なく行うために必要な触媒の開発に、原子スケールの構造情報が利用できるようになります。
概要
不安定な太陽光発電や風力発電で得られる再生可能エネルギーを安定的に活用するため、水を電気分解して水素ガスの形でエネルギーを貯蔵する、いわゆるグリーン水素の技術がCO2排出削減に有効です。そのため、高効率に水の電気分解を起こす電極触媒が広く研究されています。
東北大学大学院 理学研究科の若林 裕助 教授 を中心とした研究グループは、神戸大学大学院 工学研究科の宮崎晃平 教授らと共同で、水の電気分解が生じる電極と電解液の界面の原子配置が、時間とともに変化していく様子を、放射光を用いた界面構造解析で明らかにしました。貴金属を含まない代表的な酸化物電極触媒材料であるペロブスカイト型コバルト酸化物La0.6Sr0.4CoO3薄膜の構造を詳細に調べ、電気化学環境下にしばらく保持する事で、図1左から右の表面構造の変化が生じていることがわかりました。自発的に形成されたこの表面構造は、非常に高効率なコバルト-鉄酸化物電極触媒表面で提案されている構造と類似しています。固液界面での物質移動の様子を捉え、その性質が構造とどう対応しているかをより精細に知ることができるようになりました。
本研究成果は2025年10月3日に米国化学会の学術誌ACS Applied Materials & Interfacesにオンライン掲載されました。
図1. (左)真空中でのLa0.6Sr0.4CoO3薄膜の表面構造。CoO6八面体が頂点共有した構造である。図の下側が電極内部,上側が外部である。(右)電気化学環境下でしばらく保持した後の表面構造。図の上部に辺共有の構造が形成されている。
論文情報
雑誌名:「ACS Applied Materials & Interfaces」
論文タイトル:Surface Structure Modulation of La0.6Sr0.4CoO3 Films on SrTiO3 (001) Substrate under Electrochemical Conditions
著者: Atsuro Fujisawa, Xuhui Xu, Yuta Ishii, Hidekazu Shimotani, Yuta Inoue, Yuto Miyahara, Kohei Miyazaki, and Yusuke Wakabayashi
DOI番号:10.1021/acsami.5c11807