佐久間 由香 准教授らの研究成果が東北大学からプレスリリースされました。
:2025.09.12
細胞膜の海を探る 生きた細胞で「長距離膜粘度」を発見
発表のポイント
- 独自に開発した膜粘度を測定する方法を細胞に初めて適用することによって、これまで困難だった「生きた細胞の膜粘度測定」に成功しました。
- 生きた細胞膜の粘度はモデル細胞膜より1万倍も高いことを見出しました。
- 分子の熱運動に由来する「短距離粘度」からは予想できなかった「長距離膜粘度」という新しい概念を提案しました。
概要
細胞を囲む細胞膜は海の表面のようにゆらゆらと流れる「流動性」をもっています。この流れやすさは「膜粘度」と呼ばれ、細胞内での物質輸送や細胞機能に深く関わっています。従来は技術的な制約から、モデル細胞膜(細胞膜を模した人工膜)を用いた膜粘度測定にとどまっていました。
東北大学、国立遺伝学研究所、北海道大学の共同研究チームは、独自に開発した粘度測定法を用いることで、生きた細胞膜の粘度測定に成功しました。細胞膜に力を加えて細胞全体(マイクロメートルスケール)に流れを起こし、その流れのパターンから膜粘度を測定した結果、生きた細胞膜の粘度はモデル細胞膜と比べて1万倍も高いことを明らかにしました。これは、モデル細胞膜には存在しない、細胞骨格や膜タンパク質などの複雑な構造が流れを妨げているためです。本研究では、分子の熱運動から得られる「短距離膜粘度」に加えて、細胞全体の構造に影響される「長距離膜粘度」という新しい概念を提案しました。今回の成果は、生細胞の物理的性質の理解を大きく前進させるものであり、将来的には細胞機能の解明や病理研究への応用が期待されます。
本成果は9月5日に米国生物物理学会の学会誌、Biophysical Journalに掲載されました。
図1. 細胞膜の構造と(a)短距離粘度、(b)長距離粘度の概念図。(a) 脂質のランダムな熱運動はタンパク質や細胞骨格に妨げられない。(b)細胞全体に流れ(青矢印)が起きると、脂質の運動はタンパク質に妨げられる。
論文情報
雑誌名:「Biophysical Journal」
論文タイトル:Long-range viscosity of the plasma membrane of a living cell measured by a shear-driven flow method
著者: Yuka Sakuma, Kazunori Yamamoto, Saya Ichihara, Toshihiro Kawakatsu, Kenya Haga, Masayuki Imai, Akatsuki Kimura
DOI番号:10.1016/j.bpj.2025.09.005