岩井伸一郎教授、天野辰哉助教らの研究成果が東北大学からプレスリリースされました。
:2024.09.20
量子物質の光照射によって数兆分の1秒で構造が変化することを発見
―光音響デバイスの新規開拓に期待―
発表のポイント
- 代表的な量子物質である酸化バナジウム(III)のナノ結晶において、光照射で結晶方位が変化する逆強弾性転移が、従来の熱膨張を介する過程よりも100倍高速に起こることを発見しました。
- 高速な構造変化の機構が、量子物質が示す光誘起絶縁体―金属転移によるひずみ波の伝搬であることを解明しました。
概要
光による固体の結晶構造(対称性)の変化は、非接触の超音波トランスデューサーなど光ー力学エネルギーの高速変換の原理として産業応用されることが期待されています。しかし現在の技術は熱膨張を介しているため、ナノ(10億分の1)秒以下の高速、言い換えるとギガ(10億)ヘルツ以上の高い周波数での応答は困難でした。
東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授と天野辰哉助教、名古屋大学大学院工学研究科の岸田英夫教授、仏レンヌ第一大学物理学科/仏国立科学研究センター(CNRS)のMaciej Lorenc 博士とHerve Cailleau教授、仏ナント大学Jean Rouxel材料研究所/CNRSのEtienne Janod 博士らの国際研究グループは、モット絶縁体と呼ばれる量子物質のナノ結晶を用いることにより、巨視的な結晶対称性の変化(逆強弾性転移)が、3 ピコ(1兆分の1)秒という、熱膨張を介する場合の100分の1の短時間で完了することを発見しました。こうした高効率、超高速な構造変化は、新規な光音響デバイスの原理として応用が期待できます。
この成果は科学誌Nature Physicsに2024年9月17日にオンライン掲載されました。
図1.モット絶縁体V2O3の圧力ー温度相図と本研究で行った「コヒーレントなひずみ波が誘起する結晶対称性変化」の模式図。V2O3は圧力や温度の変化によって構造が変化し、絶縁体や金属のように相が変化する。モット絶縁体(単斜晶、図中の黄緑色の立体)にフェムト秒レーザーパルス(図中赤色の振動波形)を照射することによって金属(菱面体、図中のオレンジ色の立体)への変化、すなわち絶縁体ー金属転移が起きており、ひずみ波(圧力減少の波、図中白色の伝搬波形)のコヒーレント伝搬による高速な強弾性転移(単斜晶→菱面体)が起きていることがわかった。
論文情報
雑誌名:「Nature Physics」
論文タイトル:Propagation of insulator-to-metal transition driven by photoinduced strain waves in a Mott material(モット物質における光誘起歪波による絶縁体―金属転移の伝搬)
著者: Tatsuya Amano, Danylo Babich, Ritwika Mandal, Julio Guzman-Brambila, Alix Volte, Elzbieta Trzop, Marina Servol, Ernest Pastor, Maryam Alashoor, Jörgen Larsson, Andrius Jurgilaitis, Van-Thai Pham, David Kroon, John Carl Ekström, Byungnam Ahn, Céline Mariette, Matteo Levantino, Mickael Kozhaev, Julien Tranchant, Benoit Corraze, Laurent Cario, Mohammad Dolatabadi, Vinh Ta Phuoc, Rodolphe Sopracase, Mathieu Grau, Hirotake Itoh, Yohei Kawakami, Yuto Nakamura, Hideo Kishida, Hervé Cailleau*, Maciej Lorenc*, Shinichiro Iwai*, Etienne Janod*
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 教授 岩井伸一郎
DOI番号:10.1038/s41567-024-02628-4