齋藤真器名 准教授らの研究成果が東北大学からプレスリリースされました。
:2024.06.19
10億分の1秒の原子運動を見る放射光技術を開発
―材料開発や生命現象の機構の理解に大きく貢献へ―
発表のポイント
- 10億分の1秒(ナノ秒)程度で起こる原子・分子・ナノ構造の運動は、産業材料の機能や特性、生命現象のメカニズムの理解に特に重要な運動の1つです。しかし、放射光ではその観測が大きく制限されていました。
- 本研究グループは、1ナノ~100ナノ秒という1ナノ秒を含む広い時間で、原子運動を高精度で測定可能な新しい放射光技術を開発しました。
- 次世代2次元X線カメラを用いることで、詳細な原子の構造も同時に測定でき、タイヤなどの産業材料開発、生命現象理解が大きく加速します。
概要
ナノ秒程度で起こる原子・分子の運動は、物質の硬さや壊れやすさなど、多様な物質の特性や生体機能の最も基本的な起源の1つです。分光型と呼ばれる従来の原子運動の測定装置では、運動を観測できる時間範囲は装置性能から決まるある1つの時間(時間分解能)の近辺に制限されてしまうことなどから、放射光ではナノ秒程度の原子運動の観測はこれまで大きな制限がありました。東北大学大学院理学研究科の齋藤真器名准教授を中心とした研究グループは、理化学研究所の初井宇記グループディレクターら、高輝度光科学研究センターの依田芳卓主幹研究員ら、住友ゴム工業株式会社と共同で、従来は測定系に1つしかなかった時間分解能を2つもつ、原子運動の新しい放射光X線(注1)分光型測定技術を作り出すことで、0.1ナノ~100ナノ秒の広い時間領域で原子・分子・ナノ構造体の運動を測定することを可能にしました。また、最新の2次元高速X線カメラCITIUS(注2)を用いることで、動いているものの時間スケールだけでなく、空間的な大きさの同時測定も実現しました。本手法は、測定対象の制限が少なく、内部まで非破壊で観測でき、生体モデル系も含めた多くの対象に適用可能で、より優れた特性をもつ材料開発、生命現象の理解が大きく加速します。
本研究成果は、2024年6月18日に科学誌Physical Review Lettersに掲載されました。
図1. 放射光で櫛型のスペクトル構造を作り出し、原子・分子の運動を広い時間で観測。©️Makina Saito
論文情報
雑誌名:「Physical Review Letters」
論文タイトル:Broadband Quasielastic Scattering Spectroscopy Using a Multiline Frequency Comblike Spectrum in the Hard X-Ray Region
著者: Makina Saito*, Masashi Kobayashi, Haruki Nishino, Toshiyuki Nishiyama Hiraki, Yoshiaki Honjo, Kazuo Kobayashi, Yasumasa Joti, Kyosuke Ozaki,
Yasuhiko Imai, Mitsuhiro Yamaga, Tetsuya Abe, Nobumoto Nagasawa, Yoshitaka Yoda, Ryo Mashita, Takaki Hatsui, Yusuke Wakabayashi
DOI番号:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.256901