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薄膜・界面における物性物理 -合成と制御-

薄膜ヘテロ界面物性グループ

超高真空中での薄膜合成技術は、現代エレクトロニクスを支える半導体素子、磁気素子や量子素子の作製に欠かせない技術です。当グループでは、分子線エピタキシー法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法などを駆使して、厚さ数nm~数百nmの薄膜や積層界面を自ら作って、トポロジカル物性、磁性、超伝導などの面白い物理現象を探索しながら、機能素子の開発にも取り組んでいます(図1)。薄膜合成では、供給原料や堆積時間を調整することで、薄膜の組成を制御したり、わずか数nmという極薄膜を作製したり、異なる組成の薄膜を積層して人工超格子を作製したり、ということが可能です。自然界に存在しない構造を実際に合成するには、原子が薄膜に取り込まれる過程での熱力学平衡と反応速度論などの動的平衡をうまく制御する必要があります。最新の物性物理学や物質科学の研究では、物質の探索、物理現象の観測や量子現象の制御という基礎研究の成果の先に、興味深い物性を将来の機能素子へと展開することも大きな研究目標の一つになっています。薄膜技術は、基礎研究での成果を応用研究へと橋渡しする上で、重要な位置づけにあります。

Fig1_J

図1:本研究グループの研究内容

最近のいくつかの研究成果を図2で紹介します。

「トポロジー」と聞くと、物理系の学生の中には、メビウスの輪、あるいはドーナツからコーヒーカップへの連続変形の話を思い浮かべる方がいるかもしれません。物質固有の電子状態や特性にも、この「トポロジー」が重要な役割を果たしていることが近年の研究で明らかになってきました。例えば、我々の研究対象のひとつであるトポロジカル絶縁体は、内部は絶縁体であるにもかかわらず、表面にトポロジーに特徴づけられた金属状態を有する物質です。このような物質のトポロジカルな電子状態由来の特性を引き出して、特別な機能を果たす素子として将来活用できるようにするためには、原子スケールで制御された接合界面(2つの物質の境界をヘテロ界面と呼ぶ)や人工的に設計された超構造を作りこむ技術が有効です。このような技術を活用して、トポロジカル絶縁体の金属表面状態を、薄膜の厚さを薄くすることで絶縁体にしたり(図2(a)上挿入図)、磁気的相互作用を生じることでトポロジカルに性質の異なる量子異常ホール状態(図2(a)下挿入図)に変化したりと、伝導現象の変化を引き出せることを示しました。

磁性ワイル半金属と呼ばれる物質群の薄膜では、特別な電子構造に由来して、電気伝導現象が物質自身の磁化と強く相互作用して、大きなホール効果(電流方向と磁化もしくは磁場方向に直交する方向に電場が生じる効果)を示します。こうした新しい物質の薄膜構造を制御して、磁場センサ(図2(b))や制御素子など、機能素子への活用を模索しています。

超伝導は百年以上にわたって研究者の興味を惹きつける研究対象です。新しい超伝導物質の発見も相次いでいて、薄膜ならではの興味深い現象(例:図2(c)転移温度が厚さで大きく変化する)も広く研究されています。さらに、超伝導素子としても有用で、位相制御を活用する量子計算などに展開されています。

当研究室では、薄膜や界面、超構造を舞台に、物性物理学や物質科学の研究を行っています。自ら作って自ら測ることで、物の性質や興味深い物理現象をもたらす摂理を基礎学理として学びながら、物性の制御と機能の創出を目指す応用研究の展開を目指しています。

Fig2_J

図2:(a) トポロジカル絶縁体(Bi,Sb)2Se3薄膜における磁場誘起相転移。絶縁体から金属に変わる。(b) Fe-Sn合金薄膜におけるホール電圧の磁場依存性。外部の磁場に比例した出力電圧を示す。(c) 層状超伝導体FeSeにおける極薄膜高温超伝導の観測。厚さが変わると超伝導転移温度が変わる。
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