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2次元超伝導体の本質に迫る

低温物質科学グループ

超伝導は低温で起こる典型的な量子現象です。多くの超伝導現象は3次元的もしくは準2次元的な電子系で起こりますが、長距離秩序が抑制される2次元の極限において超伝導体が本来示すべき性質は長らく議論された問題の一つでした。我々は、最近、清浄な結晶表面上に誘起した高結晶性2次元超伝導体が、新奇な量子状態を示すことを突き止めました。

一般に2次元系において、電子の運動は欠陥や不純物といった乱れの影響を大きく受けます。実際、従来からある薄膜超伝導体の特性の多くが、試料作製の際に含まれてしまう乱れの効果に基づいて説明されてきました。一方で、乱れのない理想的2次元超伝導体が本来もつ性質の解明が急務となっていました。我々はこの問題に取り組むため、剥離法によって得られたZrNClやMoS2といった原子層物質の清浄表面に電気二重層トランジスタ(イオン液体を用いた電界効果トランジスタ:図1)を作製しました。このデバイスでは、イオンの作る強電界によって電子が表面に蓄積するため、厚さ1-2nmで乱れの影響が極少の2次元電子系が人工的に実現可能です。そこに超伝導転移を誘起することに成功し、磁場中電気抵抗を詳細に調べました。

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図1 電気二重層トランジスタ(EDLT)の概念図

その結果、図2に示すよう、面直磁場中で電気抵抗が絶対0度に向けて有限な値を示す「量子金属状態」を見出しました。これは強い2次元性と弱い乱れとともに顕著となる、量子磁束のトンネル効果による運動で説明できます。さらに強磁場では、それが超伝導領域の島(超伝導秩序の量子ゆらぎ領域)をもつGriffiths状態に変化し、「Griffiths特異点」という量子臨界点で常伝導状態へ移ることもわかりました。2次元超伝導体の温度―磁場相図は図3に示すよう量子ゆらぎが支配するバラエティーに富んだものになります[1]。

上記の結果は、高い結晶性を持つ2次元超伝導体の本質をとらえた一例です。これらは2次元結晶のもつ対称性の破れに起因した反対称スピン軌道相互作用により、スピンの方向がロックされた超伝導という新たな側面も合わせ持ちます。この性質により、新世代の2次元超伝導体は面平行臨界磁場の異常増大[2]、超伝導電流の整流効果[3]といった様々な量子現象も提供し続けています。

fig_2
図2 ZrNCl電気二重層トランジスタの面直磁場中における電気抵抗の超伝導転移[1]

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図3 高結晶性2次元超伝導体の温度磁場相図[1]

参考文献

[1] Nat. Commun. 9, 778 (2018).
[2] Nat. Phys. 12, 144 (2016).
[3] Sci. Adv. 6, eaay9120 (2020).

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