トピックス

電子散乱による原子核研究

原子核理学グループ

電子ビームを原子核標的に照射し、その散乱を観測すると原子核内部の詳細な構造が分かります。私達は、電子散乱という測定手法を利用し、以下の未解決課題に取り組んでいます

1) 陽子の大きさ(半径)
2) 短寿命な不安定エキゾチック原子核の大きさや形、内部構造

fig1_JP

1) 陽子の大きさ(半径)の精密測定
陽子は、中性子とともに原子核を構成する基本粒子です。長年、大きさや形、内部構造が詳細に調べられてきましたが、最近、電子とミュー粒子による陽子半径測定結果に深刻な不一致があることが明らかになり「陽子半径問題」と呼ばれる事態になっています。

素粒子物理学の金字塔である「標準理論」では電子とミュー粒子は同じ性質をもつ粒子と考えられているため、「陽子半径問題」は「標準理論」の「ほころび」を示唆しているとの指摘もあります。

私達は「陽子半径問題」の原因解明のため、最も信頼度の高い陽子半径決定が可能な極低運動量移行領域での電子散乱実験を電子光センターの電子加速器で行います。

2) 短寿命なエキゾチック原子核の研究
天然には存在しない短寿命で崩壊してしまう不安定なエキゾチック原子核の研究により、安定な原子核では知られていなかった奇妙な形状や内部構造が次々と明らかになっています。これら奇妙な形状や内部構造の詳細な解明が宇宙での物質進化(元素合成)の理解に不可欠であることが分かっています。そのため、エキゾチック原子核研究は、現代の原子核物理学の最重要課題と認識され世界各地で鎬を削る研究が進んでいます。

fig2_JP

電子散乱は原子核の内部構造を解き明かす最も優れた方法ですが、短寿命で崩壊する不安定核はその生成が大変難しいため電子散乱実験は不可能と考えられてきました。私達は、この壁を打ち破る革新的実験技術(SCRIT :Self-Confining RI Ion Target )を発明し、世界初のエキゾチック核専用の電子散乱施設を理化学研究所に建設しました。電子光理学研究センターが建設した大型電子スペクトロメータ(WiSES :Window -frame Spectrometer for Electron Scttering:写真) が大活躍しています。

私達は電子散乱という「電子顕微鏡」を使って、短寿命なエキゾチック原子核内部の不思議な世界を解き明かします。

fig3_JP
ページの先頭へ