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加速器における素粒子原子核実験のための測定器システムの開発研究

加速器科学グループ

加速器科学グループは、加速器の研究、ビームラインの研究、測定器の開発研究の3グループから成り立っています。今回は測定器開発研究グループの研究内容を紹介しましょう。

素粒子・原子核物理学は、かつて宇宙創生の瞬間に発生した素粒子の現象を、加速器によって地上で再現し、それを高機能の観測装置で分析する物理学です。ですから高性能の加速器とともに最高感度の観測をする実験装置が実験研究の要であり、観測・測定装置の革新が物理学の新しい領域を切り拓きます。

図1:衝突型加速器で素粒子現象を観測する

そこで本グループでは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の測定器開発室(DTP)と連携をして、素粒子・原子核物理学のための先端的な測定器技術の開発を行っています。測定器の性能は感度と精度で表すことができますが、ここで開発している測定器は、たった一つの素粒子や光子に反応する感度と、マイクロメートルの精度でその軌跡を測定したり、ピコ秒の正確さでその時間を記録することが追及されます。

こうした測定器の開発で、最近大きな進展があったのが、SOI(Silicon-On-Insulator)と呼ばれる先進の半導体技術を応用した、ピクセル型検出器です。半導体を使った測定器(センサー)には長い歴史がありますが、LSIの集積技術を使うことでセンサーの微細化が進んでいます。そこに新しいSOI技術を加えることで、センサーとその信号処理回路までも一体化した、全く新しい粒子測定器システムが実現できます(図2)。これはモノリシックセンサー(monolithic sensor)とよばれ、将来の測定器の主流となることでしょう。

fig2

図2 SOI技術を用いたモノリシックピクセルセンサーの概念。検出器の厚みは50~500ミクロン。

グループでは世界最高精度の粒子軌跡測定装置をSOI技術により開発しています。現在最も高密度の試作チップは8ミクロンのピクセルサイズで、昨年度の高エネルギービームを使った試験により、1ミクロンを下回る位置分解能を持つことが確かめられました(図3)。これは、単一素粒子の電子的な測定において、世界で初めてサブミクロンのレベルに到達したことを意味しています。この超高精度を活かしてどんな新しい観測が可能となるか、たいへん楽しみなところです。

fig3

図3:ビームテストで示された測定誤差の分布。
参照として同程度のスケールの微生物の顕微鏡写真を右上に掲載。

さらにこうして開発される技術は、素粒子・原子核物理学ばかりでなく、物質・生命を研究する様々な基礎科学、さらには医療診断の分野、非破壊検査などの産業利用にも大きな革新を引き起こせると考えられ、そうした応用可能性を研究することも重要なテーマとなります。

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