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研究分野の紹介

物性実験I

量子スピン・軌道物性

教員
  • 教授/大谷 義近
  • 助教/許 明然
研究について

本研究グループでは、電荷・スピン・軌道・マグノン・フォノンといった多様な角運動量自由度を統合的に扱う「量子スピントロニクス」の創成を目指し、基礎物理から将来の量子技術への応用までを視野に入れた研究を行っています。従来のスピントロニクスが電子スピンの制御を中心として発展してきたのに対し、本研究では軌道角運動量や格子振動、光、スピン波などを含む準粒子の相互作用や相互変換に着目し、新しい量子輸送現象やエネルギー変換機構の解明に取り組んでいます。特に、異なる自由度が強く結合して生じる「キメラ準粒子」の生成・制御・輸送を実現することで、従来にない物性機能の創出を目指しています。

研究テーマは大きく三つの柱から構成されます。第一は、電流によって軌道角運動量を生成・制御する軌道流の研究であり、界面や低次元構造における新しい角運動量輸送の仕組みを解明します(図1)。第二は、表面弾性波などを利用した量子輸送の研究であり、単一電子やスピンをコヒーレントに搬送する技術の確立を目指します。第三は、図2に示すようにマグノンとフォノンの強結合によって生じるハイブリッド準粒子の研究であり、人工的に設計した周期構造を用いて新しい波動物性やトポロジカル輸送現象の探索を行います。これらの研究は相互に密接に関連しており、準粒子の生成・変換・輸送を統合的に制御する新しい物理の体系の構築につながります。

本研究グループの特徴は、材料作製、ナノデバイス加工、精密計測、理論解析までを一体として行う点にあります。

さらに、JST ASPIRE プロジェクト「人材育成と量子スピントロニクス技術の基盤確立に向けた日仏共同イニシアティブ」の代表を務めており、日仏の主要研究機関との国際共同研究を推進しています。特に国内では、大阪大学や東京大学物性研究所とも密接に連携し、基礎物性の解明からデバイス実証までを一気通貫で進める研究体制を構築していることが大きな強みです。これらの研究は、低消費電力情報処理や次世代量子デバイスなどの基盤技術につながることが期待されています。

図 1. 図 (a)(b) は、軌道エデルシュタイン効果の直接過程と逆過程を測定する非局所配置を示しています。電流により生成された軌道角運動量が離れた位置で電圧として検出され、逆変換も観測されます。図 (c)(d) はそれぞれの抵抗変化を示し、両者は符号が反対で大きさが等しく、オンサーガーの相反関係が確認されます。

図2. (a) 上図: 磁性体中のスピンの波(マグノン)と、結晶の振動(フォノン)が強く結びついて一体となった「ハイブリッド(キメラ)準粒子」を生成するための表面弾性波デバイスの構造。表面弾性波によって両者の相互作用を制御します。(a)下図: 表面弾性波の透過率を測定したスペクトル。マグノンとフォノンが強く結合すると、二つのモードが互いに避けるように分裂する「反交差」と呼ばれる特徴的な構造が現れ、ハイブリッド化の証拠となります。(b): ナノスケールの強磁性ハニカム格子を圧電基板上に形成した、マグノンとフォノンの散乱を選択的に調べるためのデバイスの模式図。右上の挿入図は、その基本となる単位胞(繰り返し構造)を示しています。