専攻長から

Portrait of Prof. Ichikawa Atsuko

理学研究科物理学専攻長・理学部物理学科長(2025年度)
市川 温子

 科学とは、様々な現象について、その原因の客観的な説明を得ようという試みです。また、原因を知ることにより、その現象を応用することでもあります。その中で物理学は、特に前者を追及する、それも常識に囚われずに、できるだけ根源的な原因を追究することに重きを置いた学問だと思います。その上で、物理学者は宇宙・地球・生物・物性・原子・原子核・素粒子など多岐にわたる対象を相手にしています。宇宙、地球・生物・物性・原子・原子核の研究では、科学の多くの分野と同じく、その原因を説明する時、確立された基本法則を土台に説明しようとします。そして多くの応用につながります。一方、宇宙の始まりの研究や素粒子の研究では、既存の基本法則では説明できない現象を説明する、新しい物理法則を探そうとします。

 様々な現象、身の周りの世界の仕組みを理解しようとするこの物理学者の考え方は、周りの分野に大きな影響を与えてきました。例えば、最近では、人工ニューラルネットワークを用いた機械学習の開発者にノーベル物理学賞が与えられましたね。現在の機械学習の進展は、目を見張るものがあり、まさにノーベル賞に相応しい発見・発明ですが、なぜ、物理学賞なのでしょう?それは、この発見・発明が物理学的な考え方、つまり人間の「学習」現象は根源的にはどのように説明されるであろうという問いから始まったからではないかと思います。研究手法が「物理的」だったのです。

 大学の研究室では、教員は、自分が「面白い」と興味をもった現象を夢中で研究しています。学生の皆さんが、その一員になってくれたら、教員はみなとても嬉しく思うでしょう。一方で、学生の皆さんが物理学科、物理学専攻で学ぶことによって、そういう一員として物理を楽しむ以外にも、大きな副産物があります。昨今、日本で博士人材をもっと増やし、活かすべき、という議論があります。ここで求められている博士人材は、専門知識をもった人材ということではなく、課題の原因を常識に囚われずに追求し解決法を見出していく人材です。そのような人材は、博士課程に進学せずに企業の中で経験を積むことで育つことも多いでしょう。ただし、余裕のなくなっている今の日本の企業の中で、本当にそういう経験を積める場所は限られてもいるのではないかとも思います。修士課程、博士課程では学生は、全力を尽くしてそういう経験を積むことになります。その中でも、物理学は、このようなトレーニングをするには、最良の場所ではないかと思います。

 東北大学物理学専攻・物理学科は恵まれた自然環境としのぎやすい気候を持つ仙台市にキャンパスがあります。博士課程に進学している学生の8割以上が給付型の奨学金を得て研究に専念しています。このように、東北大学は学生の皆さんが伸び伸びとした環境でじっくり物理の実力を養うのに最も適した場所です。皆さんと共に、新しい物理を切り開くのを、そして皆さんの成長を楽しみにしています。

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