相馬清吾 准教授らの研究成果が東北大学からプレスリリースされました。

 

反強磁性体に隠れた質量ゼロの電子を初めて観測
―省エネルギー技術や量子デバイスへの応用を拓く―

発表のポイント

  • スピンが交互に配列した反強磁性体のネオジム・ビスマス化合物(NdBi)における微小な磁気ドメインの中の電子状態(電子構造)を、高輝度放射光を用いて精密に測定することに成功しました。
  • NdBi表面で発現する相対論的電子「ディラック電子」の質量が、磁気ドメインのスピン配列方向によって有限になったり消失したりすることを実証しました。
  • NdBiにおいて「反強磁性トポロジカル絶縁体」と呼ばれる新しい量子相が実現していることを示しました。本成果は、省エネルギー素子や量子デバイスの開発につながると期待されます。

概要

物質中で通常は見かけ上の質量(有効質量)がゼロのディラック電子は高速で動きやすく、質量を持たせることで省エネルギー素子などへの応用も期待できます。質量の発生にはこれまでの研究では永久磁石に代表される強磁性体が用いられてきましたが、漏れ磁場が生じるため集積化しにくいという課題がありました。一方、スピンが交互に配列した外部に磁場を発生しない反強磁性体でディラック電子を発生できるというアイデアが10年以上前に提案されましたが、微小領域の電子状態観測が難しいため、研究の障害になっていました。

東北大学、大阪大学、ケルン大学(ドイツ)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、量子科学技術研究開発機構、分子科学研究所などの共同研究グループは、10マイクロメートル(μm)に集光した放射光を用いて、これまで困難であった反強磁性体の磁気ドメイン領域内のディラック電子の直接観測に世界で初めて成功しました。

研究グループはNdBi結晶の反強磁性状態において、マイクロ集光角度分解光電子分光(マイクロARPES)という手法によって磁気ドメイン内の電子を精密に観測しました。その結果、NdBi表面のディラック電子が、スピンの配列方向によって巨大な質量を持つ場合と全く質量を持たない場合があることを明らかにしました。この成果は、反強磁性トポロジカル絶縁体という新しい物質相を実証しただけでなく、巨大な電磁気応答や量子伝導現象を用いた省エネルギー素子や量子デバイスへの応用につながるものです。

本研究成果は2023年11月17日(現地時間)、科学誌Nature Communicationsに掲載されます。

fig1
図(a)マイクロARPESによるNdBiの磁気ドメインの電子状態の観測の様子を示した概念図と、(b)マイクロARPES装置の写真。高輝度紫外線を物質表面に照射して外部光電効果によって放出された光電子のエネルギーと運動量を精密に測定することで、物質の電子構造を決定できます。さらに光のスポッ トサイズをミクロン単位まで小さくすることで、磁気ドメイン内の局所電子構造の決定が可能になります。マイクロ ARPESでの観測はKEKフォトンファクトリー BL-28Aで行いました。

論文情報
雑誌名:「Nature Communications」
論文タイトル:Antiferromagnetic topological insulator with selectively gapped Dirac cones
著者: A. Honma, D. Takane, S. Souma, K. Yamauchi, Y. Wang,K. Nakayama, K. Sugawara, M. Kitamura, K. Horiba, H. Kumigashira, K. Tanaka, T. K. Kim, C. Cacho, T. Oguchi, T. Takahashi, Yoichi Ando, and T. Sato
DOI番号:10.1038/s41467-023-42782-6

リンク
プレスリリース (東北大学Webサイト)

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