素・核実験
原子核理学
教員
教授/大西 宏明 | 特任教授/村松 憲仁 | |||
准教授/柏木 茂 | 准教授/日出 富士雄 | 准教授/菊永 英寿 | ||
助教/宮部 学 | 助教/時安 敦史 | 助教/本多 佑記 | 助教/松村 裕二 | 助教/横北 卓也 |
研究について

原子核理学研究グループは、先端量子ビーム科学研究センター三神峯事業所を拠点にして、原子核・ハドロン物理学、加速器科学・ビーム物理学、及び核・放射化学の研究を多角的に進めています。
先端量子ビーム科学研究センター三神峯事業所は、3台の電子線形加速器(リナック)と、1.3 GeV 電子ブースターシンクロトロンを有する全国共同利用・共同研究拠点(電子光理学研究拠点)であり、東北大学が運営する学内外の研究者のための加速器施設です。
これらの加速器から得られる20 MeV ∼1.3 GeV の特色ある電子線やガンマ線を用いて、上述の分野における最先端研究が推し進められています。
原子核理学講座の大学院生は、大型加速器を有する研究環境の中でそれぞれの分野の研究活動に参加します。
原子核・ハドロン物理学分野
1) クォーク核物理

SPring-8/LEPS における5つのクォークからなるペンタクォークバリオン Θ+ の発見は世界的な話題となり、今日に至っています。クォーク核物理研究グループは、SPring-8における Θ+の研究を続ける一方で、センターの加速器を用いてエータ(η)メソンの精密測定を行い、ストレンジネスを露わに含まないペンタクォークバリオンの候補を発見しました。この研究では、全立体角を覆う電磁カロリメータFORESTが重要な役割を果たしました。電磁カロリメータは、反応で生じた複数のガンマ線をすべて検出することを目的とする検出する大がかりな装置です(FORESTの総重量は5t)。この研究を更に推し進めるために、新たに1320本のBGO単結晶で構成される電磁カロリメータBGOeggを建設しました。BGOeggはSPring-8/LEPS2において実験が実施されています。2024年度からは前方電磁カロリメータFGも追加し、より精密な測定を行っています。
「粒子」と「真空」は相互規定的であり、ハドロンの研究とQCD真空の研究は相補的です。原子核内部は、1 cm3当たり約1億トンという超高密度の世界であり、これは開闢後間もない頃の宇宙の密度に匹敵します。そこではQCD真空が変化している可能性があります。GeV光子ビームは原子核内部に進入することができるので、これを用いて原子核内部にハドロンを生成し、その崩壊を詳しく調べることによって、原子核中でのハドロンの性質変化を研究しています。この研究は、物質質量の98%を創成すると考えられているQCD真空の相転移の研究に繋がっています。
2) エキゾチック核の構造研究
短寿命で崩壊するエキゾチックな原子核の中に、安定な原子核では知られていなかった特異な構造を有する原子核が多数発見されています。これは、安定核の研究を基に築かれてきた原子核構造に関する“常識”が、陽子・中性子数のバランスが大きく崩れたエキゾチック核では通用しないことを示しています。これら特異構造を解明し、適応範囲の広い核構造モデルを構築することは現代原子核物理学に課せられた最重要課題です。また多くのエキゾチック核が関与する核反応連鎖である宇宙での元素合成過程に、これらの核構造が大きな影響を与えることもあり、世界中の研究者が日夜その構造研究にしのぎを削っています。
電子を原子核に照射しその散乱具合から内部構造に関する知見を得る電子散乱は、原子核の構造研究にとって最良の方法です。それは電子が、1) 点状粒子であり、2) 電磁相互作用で原子核と散乱する、ためです。原子核の教科書に書かれているように、(安定な)原子核の形状や大きさ、また核内核子の運動量分布など、原子核構造の基本的な物理量の多くは電子散乱実験によって決定されてきました。

東北大スペクトロメータ
しかしながら、生成が困難で短寿命で崩壊してしまうエキゾチック核の電子散乱による研究は、原子核研究者の長年の夢でしたがその標的生成があまりに困難なため不可能と考えられてきました。私たちはこの壁を打ち破りごく少数の標的エキゾチック核で電子散乱実験を可能にする画期的な実験技術を発明しました。この技術をもとに理化学研究所と共同で世界初のエキゾチック核専用の電子散乱施設を建設しエキゾチック核の構造研究を進めています。
加速器科学・ビーム物理分野

荷電粒子と電磁場あるいは光子との相互作用と集団運動の動力学(ビームダイナミクス)を理解するために、主として高エネルギー電子加速器を用いて研究を行っています。また大学所有の電子加速器としては国内有数の規模を誇る本施設の線形加速器や1.3GeV電子シンクロトロンの性能向上及び将来の加速器の高度化のための加速器科学の応用研究も行われています。線形加速器では、主に試験加速器(t-ACTS)にて独自に開発した独立2空洞型の熱陰極高周波電子銃を用いた100フェムト秒以下の超短パルス電子ビーム生成や、この短パルス電子ビームからのコヒーレント放射を用いたテラヘルツ光源やビームモニターの開発研究を行っています。また,共鳴波長より短い電子パルスを用いた新奇な自由電子レーザー(FEL)相互作用の研究も行っています。最近では,IQ変調器の導入によるビームの高品質化や高周波電子銃に光陰極を導入することによる電子ビームの高輝度化の取り組みなども進められています。この他,円型加速器においては非線形磁場による高次共鳴および結合共鳴のビームダイナミクス、航跡場による電子集団の縦方向位相空間の変形及び不安定性等も研究しています。
他機関との共同研究としては、高エネルギー加速器研究機構(KEK) などとニオブスズ合金を用いた小型加速器用超伝導加速空洞の開発に向けた研究や、海外ではチェンマイ大学(タイ)や精華大学(台湾)と熱陰極高周波電子銃の基礎研究およびレーザー逆コンプトン散乱による X 線生成研究なども進めています。
核・放射化学分野
放射性同位元素(RI)を用いた様々な研究を推進しています。先端量子ビーム科学研究センター三神峯事業所の大強度電子リナック(電子・光子照射)をはじめ、本学の大型サイクロトロン(荷電粒子照射)や核燃料施設(娘核種の分離)を利用して施設の特長を活かした相補的なRI製造を行っています。得られたRIを必要に応じて放射化学的手法により精製し、核壊変特性の研究、光量子放射化分析、元素挙動を知るための化学トレーサー、物質科学研究などに利用しています。その他基礎データとして重要な核反応断面積・収率や線量分布の測定も手掛けています。