素・核実験

素粒子実験(ニュートリノ)

教員

教授/井上 邦雄 教授/岸本 康宏
准教授/古賀 真之 准教授/清水 格 准教授/石徹白 晃治
助教/池田 晴雄 助教/渡辺 寛子 助教/市村 晃一 助教/三宅 春彦

研究について

非加速器素粒子実験
 自然や宇宙は巨大な素粒子実験室です。身の回りには宇宙創成期、進化期の情報を持った素粒子が飛び交い、地球や太陽、銀河からは絶えず素粒子が放出され、地上に降り注いでいます。これらの粒子を検出して素粒子や宇宙を研究することが、非加速器素粒子実験の目的となっています。
中でもニュートリノは弱い相互作用しかしないため、宇宙初期から太陽内部、星の終焉、地球内部の情報までも直接現在の我々人類に伝えてくれます。さらに、ニュートリノの極端に軽い質量構造や、ニュートリノ間の結びつきは、素粒子大統一理論を反映しており、宇宙が物質のみから構成されている事の原因とも考えられます。このようなニュートリノの研究は、素粒子物理学はもちろん宇宙物理・地球物理学の今後の展開を方向付ける重要な研究課題です。

カムランド実験
当研究グループは、①原子炉反ニュートリノ観測によるニュートリノの性質の特定、②地球内部反ニュートリノ検出による地球内放射化熱量の観測、③太陽ニュートリノ検出による恒星進化の研究を主目的とした、世界最大の 1,000 トン液体シンチレータ検出器を岐阜県飛騨市神岡鉱山の地下 1,000 mに完成させ、2002 年からデータ取得を継続しています。カムランドの液体シンチレータは通常の物質と比べて 1 兆分の 1 程度しか放射性不純物を含んでおらず、希な現象の研究に適した極低放射能環境を実現しています。

 この検出器によって原子炉からの反電子ニュートリノ観測を行い、ニュートリノの見かけの数が距離とともに減少・復元を繰り返すニュートリノ振動を2サイクル以上にわたって捉え、30 年以上未解決であった太陽ニュートリノの謎を解決するとともに、ニュートリノ振動パラメータの精密測定を達成しました。
また、地球内のからのニュートリノの観測にも世界で最初に成功し、ニュートリノをプローブとして利用した地球内部の観測「ニュートリノ地球物理」を切りひらきました。このニュートリノは地球内部の放射性物質が崩壊する際に熱と共に放出するものであり、その観測で得られる情報は地球内放射性熱量に焼き直すことができ、更に地球形成・発展の研究、地磁気生成、マントル対流といった地球ダイナミクスの研究への展開が期待されています。
今では、カムランドの観測精度向上により地球内熱量に占める放射性物質起源の熱の寄与の割合を検証できるようになってきていますが、特に停止している国内原子炉が多い現状は地球ニュートリノ観測の精度向上に適しており、急速な発展が見込まれます。さらなるニュートリノ利用の実践として、太陽ニュートリノ観測による太陽内部の直接観測とそれによる恒星進化の究明、超新星爆発ニュートリノの観測による宇宙の進化の研究、重力波望遠鏡と連携したマルチメッセンジャー宇宙観測なども推進します。

カムランド禅実験
カムランドの極低バックグラウンド環境を活用した 136Xe を使ったニュートリノレス二重ベータ崩壊の研究プロジェクト「カムランド 禅」が実施されています。カムランド検出器中心部にミニバルーンを導入して 136Xe ガスを溶かした液体シンチレーターで満たし、136Xe の崩壊によるニュートリノレス二重ベータ崩壊の観測を目指しています。ミニバルーンの外側のカムランドの液体シンチレータの領域はカムランド実験の推進するニュートリノ観測を同時並行で行うことができます。
ニュートリノレス二重ベータ崩壊の研究は、ニュートリノと反ニュートリノの同一性(マヨラナ性)を調べる現実的な唯一の研究手法です。また、ニュートリノの質量構造も決定することもできます。マヨラナ性の解明はニュートリノの質量生成機構や、宇宙が物質だけでできていることに対して強い関係があると考えられており、素粒子標準理論を越えたこれらの謎の究明の最有力手法として世界中で激しい競争が繰り広げられています。2011 年から 2015 年に 380 kg のキセノンを用いて観測を行い、2019 年から 2024 年はより半径の大きなミニバルーンを導入し 745 kg までキセノンを増量して更なる高感度実験を行いました。これまでにニュートリノレス二重ベータ崩壊の半減期に対して世界で最も厳しい制限を与え、世界の競合実験に先駆けてマヨラナ質量の逆階層構造領域の検証を開始しています。
今後も競合実験をリードし続けるには、検出器の高性能化が必要です。改良計画の「カムランド 2」では、検出できる光量を増加させエネルギー分解能の向上によるバックグラウンドの更なる低減を目指し、高光収集液体シンチレータ、光量子効率光センサー、集光ミラーの導入を予定しています。ニュートリノレス二重ベータ崩壊事象の発見に向けて実験開始の準備を進めていきます。

また当研究グループでは、多様な物理観測を目指した新たな実験 · 解析技術の開発や、更なる検出感度向上に向けた様々な研究を行っています。

  • 粒子識別を目指したイメージング検出器の開発
  • 機械学習によるイベント再構成とバックグラウンド同定
  • バルーンフィルムに含有する放射性バックグラウンド同定のための発光性バルーンの開発
  • 超電導センターと低放射能希釈冷凍機による軽い暗黒物質探索
  • 共振空洞によるアクシオン探索
  • 極稀事象探索のための極低放射能技術開発
  • マントル地球ニュートリノ直接観測を目指した海洋底ニュートリノ検出器の開発

当研究グループは日米欧の国際協働実験であるカムランド · カムランド禅実験を推進していくと共に、多様なアイデアによる将来発展を目指した研究開発や異分野も含む国内外共同研究も積極的に推進しています。

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