物性実験II

量子計測

教員

客員教授/山口 浩司 HP 客員准教授/佐々木 智 HP
客員准教授/大谷 知行 HP

研究について

 20世紀前半、量子力学は自然界における微視的な現象を説明する新しい物理法則として生まれました。それから100年近くが経過した現在、実験技術は著しく進歩し、今や量子力学は単に自然現象を説明するという受身的な役割ではなく、電子や光子の振る舞いを極限まで制御し、量子的重ね合わせ状態を活用した量子コンピュータや量子センシングなどの革新的技術を生み出すキーコンセプトとして、極めて重要で能動的な役割を担うようになっています。この量子計測グループでは、半導体や超伝導体などによる固体量子構造を用い、いかにして量子力学的な状態の制御を実現し活用していくかについて、幅広く研究を行います。

 量子計測グループの研究テーマの一つは量子ナノメカニクスの研究です。最新のナノテクノロジーを用いると、長さが1ミクロンより小さな半導体の機械共振器(板バネ)が作れます。この共振器の周波数は1GHzを超えます。それを量子力学的な調和振動子とみなした場合、エネルギー固有値の間隔は、温度にして数10ミリケルビンとなり、市販されている希釈冷凍機で十分達成できる温度となります。この機械振動子は、何億、何兆という、ものすごい数の原子から構成されています。はたして、このようにいわゆる「巨視的な」力学系の集団運動においても量子力学は成立するのでしょうか?私たちの身の回りにある鉄琴や鐘と何ら変わりがない巨視的な振動子において、重ね合わせの原理や、観測による状態の収縮などが同じように起きるのか。量子ナノメカニクスの研究は、そのような量子力学の本質に迫ることを目指して進めています。

 もうひとつの主要な研究テーマは、低次元量子構造における電子輸送の研究です。ここでは主にGaAs 系の半導体をベースに1 次元量子細線や0 次元量子ドットを作製し、ミリケルビン領域における電気伝導特性の測定を通じて新規の物理現象の探索を進めています。特に量子ドットは自然界の原子との類似性から「人工原子」とみなすことができ、電荷・スピンなどの物理量を自在に制御できるのが特長です。量子ドットに含まれる電子の個数を1 個単位で精密に制御してスピンを発生させると、従来からバルク金属において研究されてきた近藤効果が起こります。量子ドットの制御性のよさを活かすことにより、バルク金属では見られない新しい近藤効果のメカニズムが発見されています。また、複数の量子ドットや量子細線を自由に組み合わせて、それらの間の相関現象を調べることも可能です。

 これら2つの研究は、NTT 物性科学基礎研究所(神奈川県厚木市)において進められます。

 量子計測グループの3つめの研究テーマは、未開拓の光と呼ばれてきたテラヘルツ波の量子計測に関する研究です。テラヘルツ波(周波数0.1-10 THz、波長3mm-30 μm)は赤外線と電波の中間に位置する電磁波で、電波的特性を利用した物質透視や吸収スペクトルを用いた物質同定を代表例として、従来技術では測定困難であったパラメータの新たな計測プローブとして期待されます。光子のエネルギーは数meV と非常に小さいですが、これが超伝導体のエネルギーギャップにほぼ等しいことを活かし、本グループでは超伝導トンネル接合(STJ)素子や力学インダクタンス検出器(MKID)による量子検出の研究を進めています。STJ 素子は、超伝導体-薄い絶縁体-超伝導体という膜構造を持ち、薄い絶縁体を介した電子のトンネル効果を計測に利用します。検知の素過程には、テラヘルツ波を共鳴受信してSTJ 素子でトンネル電子に変換する光支援トンネリングや、テラヘルツ波で励起されたTHz フォノンによるクーパー対解離を利用します。このほか、テラヘルツ波を利用したフォトニック結晶に関する研究も進めています。以上のテーマは、理化学研究所テラヘルツ光研究グループ(仙台市青葉区)で行なわれます。

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