物性実験II

量子計測

教員

客員教授/足立 伸一 HP 客員教授/大谷 知行 HP 客員教授/山口 浩司 HP

研究について

 20世紀前半、量子力学は自然界における微視的な現象を説明する新しい物理法則として生まれました。それから100年近くが経過した現在、実験技術は著しく進歩し、今や量子力学は単に自然現象を説明するという受身的な役割ではなく、電子や光子の振る舞いを極限まで制御し、量子的重ね合わせ状態を活用した量子コンピュータや量子センシングなどの革新的技術を生み出すキーコンセプトとして、極めて重要で能動的な役割を担うようになっています。この量子計測グループでは、いかにして量子力学的な現象をこのような革新的技術として活用していくかについて、特に計測領域における応用を念頭に幅広く研究を行っています。

 量子計測グループの1つめの研究テーマは、シンクロトロン放射光(以下、放射光)を利用した物質の動的構造に関する研究です。放射光は荷電粒子が加速器中の磁場で加速される際に放射される電磁波ですが、指向性・輝度が高く、赤外域からγ線に至る幅広いエネルギー領域をカバーすることから、主に実験室では高輝度光源が得られにくい真空紫外からX線領域の光源として、物質科学や生命科学などの研究分野で幅広く利用されています。放射光施設では高輝度なX線を用いて、X線回折・散乱による物質の精密構造解析が広く実施されています。さらに、放射光は数十ピコ秒程度の幅をもつパルス光源でもあることから、「パルス光」と「高輝度X線」という特徴を組み合わせることにより、物質構造がピコ秒オーダーで過渡的に変化する過程をX線で追跡し、動的な構造変化を解析することが可能となります。このような時間分解X線計測は放射光施設でしか実施できないことから、この特徴を活かした固相や液相の動的な構造と物性に関するユニークな研究を展開しています。以上のテーマは、高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(茨城県つくば市)で行なわれます。

 量子計測グループの2つめの研究テーマは、未開拓の光と呼ばれてきたテラヘルツ波の量子計測に関する研究です。テラヘルツ波(周波数0.1-10 THz、波長3mm-30 μm)は赤外線と電波の中間に位置する電磁波で、電波的特性を利用した物質透視や吸収スペクトルを用いた物質同定を代表例として、従来技術では測定困難であったパラメータの新たな計測プローブとして期待されます。光子のエネルギーは数meV と非常に小さいですが、これが超伝導体のエネルギーギャップにほぼ等しいことを活かし、本グループでは超伝導トンネル接合(STJ)素子や力学インダクタンス検出器(MKID)による量子検出の研究を進めています。STJ 素子は、超伝導体-薄い絶縁体-超伝導体という膜構造を持ち、薄い絶縁体を介した電子のトンネル効果を計測に利用します。検知の素過程には、テラヘルツ波を共鳴受信してSTJ 素子でトンネル電子に変換する光支援トンネリングや、テラヘルツ波で励起されたTHz フォノンによるクーパー対解離を利用します。このほか、テラヘルツ波を利用したフォトニック結晶に関する研究も進めています。以上のテーマは、理化学研究所テラヘルツ光研究グループ(仙台市青葉区)で行なわれます。

 量子計測グループの3つ目の研究テーマは量子ナノメカニクスの研究です。最新のナノテクノロジーを用いると、長さが1ミクロンより小さな半導体の機械共振器(板バネ)が作れます。この共振器の周波数は1GHzを超えます。それを量子力学的な調和振動子とみなした場合、エネルギー固有値の間隔は、温度にして数10ミリケルビンとなり、市販されている希釈冷凍機で十分達成できる温度となります。この機械振動子は、何億、何兆という、ものすごい数の原子から構成されています。はたして、このようにいわゆる「巨視的な」力学系の集団運動においても量子力学は成立するのでしょうか?私たちの身の回りにある鉄琴や鐘と何ら変わりがない巨視的な振動子において、重ね合わせの原理や、観測による状態の収縮などが同じように起きるのか。量子ナノメカニクスの研究は、機械振動子の動きを高感度に計測することにより、このような量子力学の本質に迫る現象の解明を目指して進めています。 この研究は、NTT 物性科学基礎研究所(神奈川県厚木市)において進められます。

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