物性実験I

極低温量子物理

教員

教授/木村 憲彰
准教授/水上 雄太
助教/壁谷 典幸

研究について

物質を絶対零度近傍まで冷却すると、熱的な擾乱によって覆い隠されていた物質の本来の性質が見えてくる。とりわけ、多彩な基底状態や量子現象が発現する強相関電子系では極低温であらわになる現象が多く、極低温が物質探索や新奇な現象解明の重要なツールとなっている。 本研究グループでは、(i)結晶構造に特徴をもつ強相関伝導系の物質開発を行い、(ii)これらが極低温・強磁場・高圧などの極限環境で示す新たな基底状態や量子状態を探索し、(iii)そのメカニズムを極低温物性測定を通して明らかにする研究を行っている。特に、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果をはじめとするフェルミ面研究から、伝導電子の基底状態の新たな性質を導き出す研究を得意としている。

現在本研究グループが取り組んでいる研究テーマは以下のとおりである。

(1) 磁気量子臨界点とフェルミ面の相転移:
磁気秩序温度が絶対零度まで落ち込む量子臨界点近傍では、量子ゆらぎによってフェルミ面の不安定化があらわになる。このような領域で発現する新奇な基底状態・相転移を探索し、量子臨界点における新しい物理概念の構築を目指す。

(2) 空間反転対称性の破れた超伝導:
空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ超伝導物質を探索し、スピン軌道相互作用によって発現する新しい超伝導特性を明らかにする。

(3) パリティの破れに起因したフェルミ面のスピンテクスチャー:
空間反転対称性の破れた金属ではフェルミ面のスピン縮退がとけ、スピンテクスチャーが現れる。これらをdHvA効果で検出することを目指す。

(4) 強相関トポロジカル量子相における新奇準粒子:
強相関物質のトポロジカル量子相で現れる新奇な準粒子励起の観測や基本的性質の解明を極低温精密測定を通して行う。

(5) 希土類化合物における量子スピン系:
スピンの非可換性が顕現化する舞台となる幾何学的フラストレーションに希土類元素を組み合わせることで、これまでにない新たな性質をもった量子スピン系の開拓を行う。

(6) 準結晶の電子状態:
周期構造を持たない結晶である準結晶の電子状態や秩序状態を、極低温における熱力学量および輸送現象測定により探索する。

本研究グループには、これらの研究目的を実施するための各種試料育成装置から、極低温・強磁場・精密高圧にいたる種々の実験設備を有しており、また、常に世界最先端を目指す技術開発を行っている。さらに、本研究グループの特長や研究実績を生かして、国内外と活発に共同研究を行っている。

図1. タングステン坩堝の電子ビーム溶接。高蒸気圧・高融点化合物の単結晶育成を可能にする。

図2. 空間反転対称性の破れた物質におけるdHvA周波数の角度依存性。スピン分裂したフェルミ面間の軌道交差現象をとらえている(β2∼β4)。
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