物理学専攻案内パンフレット(印刷物)
素粒子物理は物質の究極の姿を対象とする分野であり、物質のもっとも基本的な構成要素である素粒子と、自然現象を支配するもっとも基本的な物理法則としての素粒子間の相互作用を研究するのが目的である。
原子核理論研究室では、自然界で知られている4つの基本相互作用の一つである「強い相互作用」に関係した非常に広範囲の理論的研究を行っている。その活動は主に二つに分類できる。一つは多数の核子(陽子や中性子)から成る量子多体系としての原子核の構造とそれを支配する動力学についての研究である。もう一つは、多数のクォーク・グルーオンから成る量子多体系としてのハドロン(核子やπ中間子およびその励起状態)の構造や高温高密度核物質についての研究である。
物性理論グループは、様々な物質の興味深い性質を理論的に解明する研究を行っている。以下に我々の研究室のめざすものと研究環境について紹介する。
我々はまだ、素粒子のさまざまな性質の起源や宇宙の物質の起源などを理解していない。これらの謎を解明するために、当研究室では加速器を用いて、重いクォークやヒッグス粒子の性質を調べる、あるいはニュートリノを生成し300キロメートル走行後の性質の変化を測定している。また、新しい検出器を作りニュートリノの特異な性質を捉えることも目指している。
自然や宇宙は巨大な素粒子実験室である。身の回りには宇宙創成期、進化期の情報を持った素粒子がさまよい、地球や太陽、銀河からは絶えず素粒子が放出され、地上に降り注いでくる。これらの粒子を検出して素粒子や宇宙を研究することが非加速器素粒子実験の目的である。中でもニュートリノは弱い相互作用しかしないため宇宙初期から太陽内部、星の終焉、地球内部の情報までも直接現在の我々人類に伝えてくれる。
原子核物理のフロンティアは、加速器の急速な進歩により近年めざましく拡大している。従来研究されてきた通常の原子核とは本質的に異なる様々な極限状態の原子核を生成し、その性質を実験的に研究することが可能となってきた。こうした研究によって、我々の物質観は大きく拡張されつつある。
原子核理学研究グループは、電子光理学研究センターを拠点にして、原子核・ハドロン物理学、加速器科学・ビーム物理学、及び核・放射化学の研究を多角的に進めている。 電子光理学研究センターは、二つの電子線形加速器(リナック)と、1.3 GeV 電子ブースターシンクロトロンを有する全国共同利用・共同研究拠点(電子光理学研究拠点)であり、東北大学が運営する学内外の研究者のための加速器施設である。
核放射線物理グループは、国内有数のサイクロトロン加速器を有し、サイクロトロンの多目的利用と放射性物質(RI)管理並びに短寿命・高レベルRIの利用推進を目的とするサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターに所属しており、加速器と測定器の2研究部から構成される。
当グループは、大強度陽子加速器および加速器を用いた原子核・素粒子物理の研究を行う。
本研究室では、光電子分光法を主な実験手段として、高温超伝導体に代表される強相関電子系やナノ構造物質の電子構造とその物性発現機構解明の研究を進めている。これらの電子系で観測される特異な物性(超伝導、金属-絶縁体転移、電荷密度波等)は、そのフェルミ準位近傍の微細な電子構造に起因する。角度分解光電子分光(Angle-Resolved PhotoEmission Spectroscopy: ARPES) は、固体のバンド構造を直接観測決定できる強力な実験手段であり、近年目覚ましいエネルギー分解能の向上を達成した。
物質を絶対零度近傍まで冷却すると、熱的な擾乱によって覆い隠されていた物質の本来の性質が見えてくる。とりわけ、多彩な基底状態や量子現象が発現する強相関電子系では極低温であらわになる現象が多く、極低温が物質探索や新奇な現象解明の重要なツールとなっている。 本研究グループでは、(i)結晶構造に特徴をもつ強相関伝導系の物質開発を行い、(ii)これらが極低温・強磁場・高圧などの極限環境で示す新たな基底状態や量子状態を探索し、(iii)そのメカニズムを極低温物性測定を通して明らかにする研究を行っている。特に、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果をはじめとするフェルミ面研究から、伝導電子の基底状態の新たな性質を導き出す研究を得意としている。
電子が凝集し相互作用する系は、強相関電子系と呼ばれている。強相関電子系では、しばしば対称性の破れやトポロジカル数で特徴づけられる量子秩序が生じ、巨視的なスケールで量子効果が発現する。超伝導・スピン液体・量子ホール効果は、その代表例である。また、量子秩序からの素励起は、位相欠陥・スピン波・エニオンなど、一般に電子の個別励起とは全く異なるものになる。新奇な量子秩序を発見すること、量子秩序の秩序変数と素励起を解明することは、強相関電子系研究の中心課題である。
物質の様々な性質は、その構造と直接・間接に結びついている。我々は物質の構造を詳細に見る事によって、多彩な物性の起源を微視的に解明する事を目指している。原子間の相互作用までさかのぼって考える事で、観測した微小な構造変化から、物質中で生じている現象を読み解く。測定手法は主に放射光を用いた回折・散乱法であり、通常のX線構造解析に用いるブラッグ反射以外の情報に注目した構造研究を行うのが特徴である。これにより、フラストレート磁性体や軌道液体のような乱れが本質的に重要な系、あるいは結晶格子の周期性が破れた界面での創発物性に関する研究を進めている。
1次元ナノチャンネル、2次元平面に挟まれたナノ空間、そして、かご状のナノ空間内におかれた水分子、プロトン、電子、或いは生体分子の動的な伝導・誘電特性(ダイナミックス)を研究しています。ナノ空間の形状や大きさに依存して、水素結合を媒介した水分子のつながりは大きく異なり、特異な物性が現れます。特に、ナノ空間に閉ざされた水分子は、生化学、医療、鉱物・地質学、さらには、環境・エネルギー問題などとも密接に関連する学際的な研究テーマです。
スピン構造物性グループは2014年1月に立ち上がりました。固体物質中の電子の自由度(電荷、スピン、軌道)に着目し、量子ビーム(中性子、ミュオン、x線)を用いて物性の発現機構の解明を目指す研究を行っています。研究対象は高温超伝導から磁性体に至るまで幅広く固体物質全般を対象とし、単結晶試料の合成と量子ビーム実験を組み合わせたユニークな手法で機構解明を目指しています。
低温物質科学グループでは、低温において顕著にその特性が現れる超伝導体や強い相関を持った電子系における電子物性の解明、およびそれらを用いた物性制御と新規物性の創成に関する研究を行っています。薄膜、多層膜、単結晶およびそれらをデバイス化した試料を駆使して、絶対0度近傍までの広い温度範囲で、輸送特性や熱力学特性を調べる実験をしています。
強磁場物性グループは、電子のもつ磁石ースピンによる量子現象の研究を行っています。 強磁場はスピンや電荷を制御する強力で精密な場であり、あらゆる物性研究で用いられるユニークな環境です。自由電子レーザーやテラヘルツ波なども駆使して、強い磁場の下であらわれる物質の新しい姿を探求します。
本研究グループでは有機分子の集積によって構成されている分子性有機導体を主たる研究対象とした物性実験研究を進めています。分子で構成されている有機物質の特徴は“やわらかい”ことです。この特長から、近年、有機ELデバイス、有機トランジスターなどの軽量で“曲がる”エレクトロニクス材料として注目されています。このような分子性有機物質の基礎的物性(強相関電子による金属-超伝導-絶縁体相転移など)の解明、新奇な物性の発見、開拓を目指しています。
本研究グループでは、非平衡プロセスである超高真空中での薄膜作製手法を駆使して、人工的超構造の創成と界面物性研究を行っています。特に、量子ホール効果に代表される量子輸送現象に着目しており、2次元電子系を形成する新規物質群の探索と実証研究を展開しています。さらに、デバイスプロセスを通した電界効果素子開発によって、2次元の金属絶縁体転移やある種の物性における転移温度の電界変調などを行っています。
強相関電子物理学グループでは国内の最先端研究施設の優れた環境のもとで強相関電子物性の研究教育を行っている。
生命は高分子や両親媒性分子などの物質からできていますが、代謝・増殖・恒常性・形態形成など、通常の物質にはない特徴を持っています。この様な生命が持つ様々な特性を物性物理を基本にして明らかにすることが当研究室の目的です。
光物性物理グループでは、光と物質の相互作用を高度に利用・開拓することで新奇な物理現象の解明と物質機能の創出を行っています。特に、自然界の物質を超越する機能を有する人工物質「メタマテリアル」、光合成物質やカーボンナノチューブなどの「有機共役π電子系」、光による磁性(スピン配列・スピン流)の制御を可能とする「光スピントロニクス物質」、磁性・誘電性・光応答が結合する「電気磁気光学物質」、および、これらの機能をハイブリッドする新規物質群を対象に、紫外・可視・近赤外・テラヘルツ・マイクロ波などの幅広い周波数帯の光(電磁波)と独自の光学技術を用い、物質機能の解明と新機能の創出を目指しています。
本研究グループでは、光による電気伝導性や磁性の制御(光誘起相転移)や高次高調波発生などの光強電場効果の研究によって、現在のエレクトロニクスやスピントロニクスの動作速度(ギガ(十億)ヘルツ)を千倍から百万倍凌駕する超高速(テラ(1兆)ヘルツ~ペタ(千兆)ヘルツ)フォトニクスを目指します。有機超伝導体、高温超伝導体、量子スピン液体/マヨラナフェルミオン物質や、強相関ディラック半金属など、量子多体効果が生み出す「強相関電子」の世界を舞台に、世界最先端のアト秒(アト秒=百京分の一(10-18秒)光技術を駆使して、電子の空間・時間反転対称性を操作し、次々世代の極限光エレクトロニクス・スピントロニクスを開拓します。
私たちはナノテクノロジーに裏打ちされた超高純度半導体デバイスや新奇材料を舞台とすることで、試料に存在する電子の電荷やスピン、ホール、励起子、核スピンといった粒子や準粒子が量子力学によって織りなす物理を研究しています。
磁性体中では、スピンが特別な配列を示したり、結晶構造が特別な対称性を有していたりすると、トポロジーや対称性の破れの効果によって、非自明な現象や高度な機能を発現する場合があります。本グループでは、磁性体における特殊な磁気構造や結晶構造によって生み出される機能や、そのような機能を発現する物質を調べています。
結晶成長物理グループでは、液相または気相から固相が形成される過程で生じる様々な現象を研究対象としています。半導体、金属合金、酸化物などの実用バルク材料の多くは液相からの結晶成長により作製されています。結晶成長過程において固液界面でどのようなメカニズムで結晶が成長し、結晶材料の組織がどのようなメカニズムで形成されていくのか、といった融液成長の本質はほとんど理解されていません。当グループでは結晶成長メカニズムを基礎的に解明し、これをベースに新規な結晶成長技術を開発し、高品質結晶材料を実現することを目指しています。
原子の配列が突然途切れる表面は、結晶内部(バルク)とは異なる対称性を有し、一様な固体内部では実現しないような組成や特異な構造が実現することが知られています。そのため表面・界面には特有の物性や新たな機能が期待できるのです。私たちは、様々な機能を持った表面・界面の創製を目指して、表面・界面を原子レベルで理解するために研究を行っています。
電子の持つスピン 1/2 は大変魅力的な研究対象です。多くの物質では低温で電子スピンは静止しますが、中には幾何学的フラストレーションや低次元性の効果、さらには他の自由度との結合等により特異な揺らぎを伴う基底状態を示す場合があります。我々は中性子非弾性散乱というスピンの運動を直接観測できる強力な手段を用いて、このような揺らぎに支配された量子的な基底状態の形成原因やそこから現れる特異な物性を解明する事を目的に研究を進めています。
量子サイズ効果、軌道整列効果などが支配する量子ドット、ナノチューブ、GMRナノ クリスタルなどの物性解明には、従来のマクロスケールの物性解析手法ではなく ナノメーター(1 nm = 10-9 m)スケールでの物性解析手法が必要不可欠です。 これは電子ナノビームを用いることによって可能となります。
結晶は原子が規則的に並んだものですが、相転移(例えば黒鉛がダイヤモンドになる等)が起こると原子や電子の分布は何らかの事情で変化します。それがたとえ僅か0.1Å以下の変化であっても結晶の性質(誘電性、伝導性、磁性など)が大きく変わることがしばしば起こります。このような原子や電子の変位をX 線や中性子線などを用いた回折実験で「観る」ことにより、結晶の世界の法則を明らかにしていきます。
量子機能計測グループでは、最先端の計測分析技術を基軸として、時間分解X線計測による物質構造の光誘起ダイナミクス研究、新たな電磁波領域であるテラヘルツ波を用いたセンシング研究、及び、病理組織・細胞の画像診断を活用した生物物理学研究を進めています。