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角度分解光電子分光による新機能物質の電子状態研究

光電子固体物性グループ

今回は、光電子固体物性グループの研究内容を紹介しましょう。

光電子固体物性グループは、アインシュタインの光量子仮説に基づいた「角度分解光電子分光(ARPES)」という実験手法を用いています。物質に光を入射すると、外部光電効果によって光電子が放出されます。この光電子を、世界最高水準の分解能を持つ「超高分解能角度分解光電子分光装置」(図1)を用いて精密測定することで、トポロジカル絶縁体や高温超伝導体をはじめとする興味深い物性を示す物質の電子状態を解明します。ARPESは、物質の基本的性質を決定している「エネルギーバンド構造」を直接観測できる極めて強力な実験手法です。

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図1:光電子固体物性研究室で開発した超高分解能角度分解光電子分光装置. 挿入図は光電子分光の原理

本グループでは、光電子分光装置の高分解能化を強力に推進しており、meV(ミリ電子ボルト)を切る超高分解能を達成することに成功しました。これによって、様々な超伝導体における微小超伝導ギャップを直接観測して超伝導の仕組みを解明したり(図2)、グラフェンに代表される、数原子層程度の厚さしかない「原子層物質」の物性解明を行ってきました。さらに最近、スピン分解光電子分光装置を開発することで、電子の持つ全ての物理量、「エネルギー」「運動量」「スピン」を高精度で決定できるようになりました。これにより、スピントロニクス関連の新機能物質における電子状態解明が大きく進展しています。

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図2 ARPESで決定した鉄系高温超伝導体の超伝導ギャップの概念図(上)と電子構造(下)

一例として、トポロジカル絶縁体の研究を紹介しましょう。トポロジカル絶縁体は, 物質内部(バルク)は絶縁体であるのに対して表面に金属的な状態をもつ奇妙な物質で、その特異な性質は、物質のもつトポロジー(位相幾何学的性質)に由来しています。トポロジカル絶縁体の表面金属状態は、普通の電子とは性質が大きく異なる「ディラック電子」よって形成されています(図3)。ディラック電子の性質をうまく用いることで、超低消費電力のスピントロニクスデバイスや量子コンピュータなどへの応用が期待されています。本グループでは、ARPESを用いて物質表面から電子を抜き出して、ディラック電子の持つ「ディラックコーン」と呼ばれるエネルギー分散を直接観測(図3)することで、世界に先駆けて、種々の新型トポロジカル絶縁体の探索を行っています。このようなトポロジカル物質の発見を契機にして、新奇量子現象の発現や次世代トポロジカル電子デバイス実現のための研究が急ピッチで進んでいます。

最近本グループでは、高輝度放射光を用いて世界最高空間分解能で局所電子スピン状態を調べることのできる「ナノスピンARPES装置」の開発を始めました。この装置を用いることで、様々な物質材料における物性発現機構の解明や新機能開拓がさらに進展すると期待されます。

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図3 トポロジカル絶縁体における表面金属状態と、ARPESで直接観測したトポロジカル物質のバンド構造

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