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原子核のガス的状態、ホイル状態

核放射線物理グループ

原子核は核子と呼ばれる陽子と中性子から構成される殻模型で表されますが、原子核の励起状態の中には核子がいくつか集まってクラスターと呼ばれる集合体から構成されているように見えるものがあります。その最も典型的な例が炭素12の第二励起状態です。励起エネルギーが7.65 MeV、スピン・パリティーが0+の第二励起状態は、クラスター模型理論では3つのヘリウム原子核(=アルファ(α)粒子)が弱く結合し、ガス的な構造を持つと考えられている状態で、ビッグバン元素合成では生成されない炭素12が恒星内で合成される反応(=図1 トリプルα反応)において重要な役割を果たしている状態です。この状態は、イギリスの天文学者フレッド・ホイル博士が予言し、ノーベル物理学賞受賞者のウィリアム・ファウラー博士らによって発見されました。そのため、この状態はホイル状態と呼ばれています。

元素合成では重要なホイル状態ですが、実は真の姿はまだ明らかにされていません。現在のスーパーコンピューターを用いた「第一原理核構造計算」でも励起エネルギーやスピン・パリティーを完全に説明できないため、このホイル状態の構造解明は最近の大規模計算の大きなテーマの一つとなっています。

我々のグループは、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターのサイクロトロン加速器(図2)を用いて恒星内にあらわれるホイル状態を再現し、ホイル状態が直接3つのα粒子に崩壊するときの放出角度・運動エネルギーを精密に測定することによって、その構造を実験的に解明することを目指しています。実際はα粒子同士の相互作用によってほぼ全て2つのα粒子から構成されるベリリウム8原子核を経由して3つのα粒子に崩壊するため、直接3つのα粒子へ崩壊するイベントは見つかっていませんが、我々のグループは世界最高精度での3α粒子崩壊測定(図3)を行っています[1]。

[1] M.Itoh et al., Phys. Rev. Lett. 113, 102501 (2014)

triplealpha
図1 トリプルα反応
cyclotron
図2 サイクロトロン加速器
setup
図3 3α粒子崩壊測定実験セットアップ
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