物性実験I

ミクロ物性物理

教員

准教授/高木 滋

研究について

はじめに: 固体中の強く相互作用しながら運動する電子系(相関の強い電子系)は物性物理の中心的課題で、多くは低温で磁性や単純ではない超伝導などの秩序を示します。何ら秩序を示さず絶対零度まで大きい量子揺らぎを示す場合もあります。電子はスピン(ミクロ磁石)の自由度を持ち、これが磁性の起源です。電子はこの他に軌道の自由度も持つため、スピン軌道相互作用により2つの自由度が強く結合するとさらに多彩な振舞が現れます。スピンと軌道が強く結合した、相関の強い電子系の示す単純ではないexoticな秩序、揺らぎを、原子核のスピンを探り針(プローブ)とする核磁気共鳴法(NMR)を主要手段として研究しています。

研究対象: 現在以下のような研究を行っています。
(1) スピン液体: 通常スピン系は、スピン間の交換相互作用程度の温度になると空間的に規則的に配列し秩序します。しかしスピンが3角形を基本構造とするような格子を組みかつ反強磁性相互作用をしていると、なかなか秩序配列が取れない(磁気的frustration)ということが起こります。特にスピンが1/2で量子揺らぎが大きいと絶対零度まで秩序しない可能性があります。スピンの向きがあたかも液体中の原子位置のように揺らいでいることから、スピン液体と呼ばれる量子状態です。このような状態を遷移金属元素Irの酸化物で研究しています。

図1: 4極子(左)と8極子(右)の例

(2) スピンのない電子系: 希土類元素、アクチナイド元素の化合物で非常にうまい状況をつくると、低温でスピン以外の自由度のみを持つ電子系が実現できます。スピン以外の自由度というのは図1に示すような、電荷の異方的分布である4極子や、1つの原子内でミクロ磁石が複雑に交差している8極子などです(総称して多極子)。通常のスピン系でスピンが低温で規則的に配列し秩序するように、結晶中ではこれらの多極子自由度が低温で規則的に配列して秩序することがあります。また伝導電子との相互作用により秩序せず絶対零度まで大きい量子揺らぎとして残る可能性もあります。これらは新たな量子状態で、伝統的な磁性物理の諸概念を一般化するものです。このようなスピン以外の自由度のみを持つ電子系の秩序、揺らぎを希土類元素Pr、Tmの化合物で研究しています。

(3) 隠れた秩序: 巨視的物性から何らかの秩序があることはわかっているものの、いったい何が秩序するのかが永年謎の物質があります。秩序変数が不明なことから隠れた秩序と呼ばれます。中でもアクチナイド化合物URu2Si2が示す秩序は非常に手強く、最先端の種々の手法を駆使した世界中での研究にもかかわらず、発見以来30年経つ現在も未解明の謎です。NMRで極く微少ですが有限の内部磁場が観測されることを手掛かりにこの謎を究明しています。

研究手法: 上記の研究を進めるうえでは純良結晶を育成することが重要です。テトラアーク単結晶育成炉などがあります。磁化、比熱、電気抵抗などの巨視的物性の測定に加え、微視的な測定手法であるNMRを駆使して研究しています。原子核のスピンは適度な強さで電子系と相互作用しており、この適度さゆえに電子系のクールな、しかも予め植え込まれたプローブとして電子状態につき非常に有益な情報を提供してくれます。

図2: 14T 超伝導マグネット(手前床下) とNMR スペクトロメーター
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