物性実験II

ソフトマター・生物物理

教員

教授/今井 正幸
講師/佐久間 由香
助教/大場 哲彦 助教/栗栖 実

研究について

生命は高分子や両親媒性分子などの物質からできていますが、代謝・増殖・恒常性・形態形成など、通常の物質にはない特徴を持っています。この様な生命が持つ様々な特性を物性物理を基本にして明らかにすることが当研究室の目的です。現在は以下のテーマで研究を進めています。

1) 生命のような自律的・持続的な自己複製システムの構築

外部から原料を取り込んで成長するモデル細胞(上)と
第1成分を加えて成長と分裂をするモデル細胞(下)

 生命のように膜で取り囲まれた領域(個体)を確保し、自らの情報をコードした情報高分子に基づいて外部から取り込んだ原料から自らを構成する物質群を合成し(代謝)、それらを使って自らを再生産し(自己生産),そして再生産された子システムも親システムと同様に再び自己生産する性質を備える(遺伝)システムを自己複製システムと呼びます。このような自己複製システムを生体分子とは異なるできるだけ単純な分子群を用いて構築することにより自己複製システムを支える物理を明らかにする研究を進めています。現在、膜上での鋳型重合により膜の情報をコードした情報高分子を用いて、外部から取り込んだ原料からエネルギー分子を合成し、自ら増殖していくシステムを構築することに成功しており、現在さらにこれをベースにより生命らしいシステムの構築に向かって研究を進めています。

2)“生きている状態”の計測

新しく開発した膜粘度測定装置(上)と
局所的に力により生じたモデル生体膜の渦流動(下)

 生命システムは、自らを構成している物質群は同じであるのに、生きた状態(非平衡状態)と死んだ状態では全く異なる性質を示します。我々は、この生きた状態と死んだ状態を物性として計測することにより生きた状態の特性を明らかにする研究を進めています。
 例えば、生体膜における代謝などの生体機能は機能性分子の拡散を通して制御されるため、膜の流動性はその機能発現を支配する重要な因子です。そこで、モデル生体膜において流動性の指標である膜粘度を調べる研究を行っています。脂質分子から成る単純なモデル生体膜から、膜の不均一性や非対称性などの条件を段階的に実際の生体膜に近づけ、生体膜の組成や構造に対する系統的な研究からその粘度を支配する要因の解明を試みています。さらに、生きた状態の細胞では生体膜は常に細胞質などから力を受けた非平衡状態にあり、平衡状態の膜粘度とは大きく異なることが予想されます。そこで最終的には“生きている状態”の生体膜の粘度測定を行い、細胞の流動特性を支配する要因の解明を目指しています。

3) 多細胞生物の形態形成機構の解明と病理診断への応用

弱い接着(上)と強い接着(下)状態の
2細胞モデルの変形過程と力学モデルによる再現

 生命は単細胞生物から多細胞生物へと進化を遂げ、その過程で細胞集団が様々な形態を作り上げてきました。そのような細胞集団の形態形成を、人工細胞を用いた実験と力学モデルを用いたシミュレーションの両面から明らかにする研究を進めています。その結果を元に、多細胞生物の胚発生を支配する力学モデルを明らかにしています。一方で、このような複数の細胞からなる組織の形態は病理診断の上でも非常に重要であることから、我々の構築した力学モデルをベースにがん細胞の特徴的な形態を支配する要因を解明し、病理診断への応用を目指しています。

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