「物質階層融合科学の構築」拠点における物理教育



「物質階層融合科学の構築」拠点リーダー
東北大学大学院理学研究科 橋本 治

本拠点は宇宙創生・進化の過程で順次形成された素粒子,原子核,固体・液体(凝縮物質), 天体・宇宙を物質階層としてとらえ,各階層固有の研究を発展させつつ,階層間の連携によって 形成される中間的状態の遷移形態や融合形態である,クォーク物質,弱・強相関物質,星・星間物質, 宇宙暗黒物質の新研究分野を開拓することを目的とする。 以下の2点を,拠点プログラムにおける目標としている。

(ア)物理・数理科学分野で本研究科が特徴を持つ研究領域の強い連携と融合を図り,今後10年間, 世界の最先端研究教育拠点となることを目指す研究教育システムを構築する。

(イ)有能な人材を世界各地から集め,あるいは積極的に国外に派遣し,国内外の大型 研究施設における 共同研究を主導的に推進し,「物質階層融合科学」研究の国際研究拠点を展開する。

大学院教育における質の低下,空洞化が叫ばれて久しい。21世紀COEプログラムでは,こうした状況を打破し質の高い博士後期課程大学院生および若手研究者を養成することが最重点課題である。本拠点においても,大学院生・若手研究者を本融合科学研究拠点の研究計画に共同研究者として参加させ,21世紀をリードする若手の養成を実現しようとしている。 このため,本プログラム教育計画では,基礎教育の充実および物理・数理科学分野で各専攻が実績をもつ双方向国際共同研究の有効利用した実践教育に重点を置いている。国際共同研究を主導的に展開してきた本拠点は,高い水準を持つ先端研究活動に大学院学生を共同研究者として参加させ,実地に教育する機会に恵まれていると考えている。ここで言う双方向国際共同研究は,それぞれの研究プログラムに応じて研究の場が国内であったり国外であったりする。何れの場合も,本拠点の研究者が主導的役割を果たしている。こうした研究環境の中で,拠点の研究者が責任を持って,若手研究者にグローバルな学問競争の厳しさを体得させ,21世紀の物質階層融合科学構築に向けて世界をリードできる若手研究者を実践的に養成する。そのため,

(1)基本的学力,学識に裏付けられた学問に対する好奇心と深い動機付け,

(2)研究テーマの発想,遂行,解析,洞察能力,

(3)物理科学,数理科学の素養と広い視野を持って,新しい学問領域を構想できる能力,

を重視する。

本プログラムでは,専攻横断的,研究領域横断的に基礎的研究能力を教育する拠点アリーナ教育システムの確立を目指している。特に,分野間の横断的研究プログラムを重視する本拠点では,融合科学確立に不可欠の広い視野を涵養するため,物理―天文―数学にまたがる物理数理科学融合教育を大学院レベルで構築する予定である。さらに,拠点のもつ上記国際的研究環境を最大限に生かして,博士後期課程学生を積極的に拠点の共同研究者として扱い,国際的共同研究の場で主体的に研究活動を担う能力を養成する。また,拠点が雇用する長期および短期滞在の外国人研究者を活用し,通常の授業だけでなく国際環境のもとに「実践的」教育を進める。現在,本研究科では,留学生を主体とする先端理学国際コースの設立を計画申請している。21世紀COE拠点と先端理学国際コースとを有機的に連動させて,21世紀型の理学教育を推進するよう計画している。

具体的には,以下の教育プログラムの検討を進めている。

(1)拠点共通講義の開講,(2)分野融合的拠点セミナーにリサーチアシスタント,若手研究者の参加。(専門横断プログラム)(3)拠点学生に対して,所属研究室を離れて研究活動に従事することを奨励。(拠点内短期留学)(4)外国人教官による英語授業,実践教育。国際理学専門コースとの連携。(5)若手研究プロジェクトを募集,審査の上研究費を配分(イニシアチブプログラム)(6)双方向国際共同研究への拠点学生参加,国際共同研究先学生との混合教育。海外拠点への長期滞在型派遣,外国人学生の招聘。

本拠点の博士課程後期学生は,拠点融合研究の共同研究者である。本拠点における研究活動は,優れた博士後期課程学生,若手研究者を結集して初めて成果を得ることが出来る。大学院博士後期課程学生をリサーチアシスタントとして雇用する等,研究衣食住環境(研究資金,技術・経済的支援,研究スペース)を整備することも,本拠点における教育計画の重点項目の一つである。

理学研究科では,物質の諸階層にまたがる物理数理科学の研究分野で将来的にも世界を先導するために,研究科で認められた3拠点が連合して基礎基盤科学研究センターを設立することを計画している。このセンターをベースとして大型先端研究施設を利用する国内・国際的共同研究を有効に展開し,大学院学生,若手研究者の飛躍の場として発展させることが,本21世紀COE拠点の目標である。このような拠点における世界を先導する研究活動の中で,5年後に多数の若手研究者が育つことこそ本プログラムが生み出す最大の成果であると考えている。




[HOME]